2007年06月23日

遙かなるケンブリッジ



藤原正彦著の「遙かなるケンブリッジ」を今更になって読みました。今更ではありますがそれで良かったかもとも、読みながら感じました。というのも文中に出てくるParker's PieceだとかLamma's Landだとか数々の地名がどこを指しているのかきっちりわかり、入り込みやすかったというのと、何よりも自分自身の今までのここでの経験と照らし合わせながら読み進めることが出来たからです。このエッセイは数学者の筆者が一年間Visiting Scholarとしてケンブリッジに研究しに来た時の経験を書いているものですが、研究員の目から見た大学やカレッジの様子だとか、Fellow達の世界の話だとか、一学生をやっていては知り得ない事が多くちりばめられており中々面白い内容でした。

中で筆者はレイシズムや家族のこと、イギリスやイギリス人についてまで広く触れていましたがこれらは「激しく同意!」という感想を抱きました。ただレイシズムに関して言えば、今回の留学中一度もそれを経験しなかったので半ば拍子抜けしたのと同時に「MBAのクラス」というコンテクスト、あるいは元々世界中から人が集まってくる「ケンブリッジ大学」という枠組みがかなり特殊で、かつ守られた世界であるのだろうと感じています。というのもオーストラリアに住んでいた際、特に現地の高校に通っていたときは激しいアジア人差別を体験し、「白人はアジア人を差別するもの」という図式が体にしみこんでいたのですが、少なくともMBAのクラスメートや知り合った大学関係者の中ではそのような人は誰一人といませんでした。これはそのような行為をしない人格者が集まっていて恵まれていたからだと思います。これが一般社会に出るとそうはいかないでしょう。イギリス人同士でも階級差別があり、外国人に対しては、かつて世界の1/4を支配した大英帝国時代のプライドからか、有色人種だけに限らず見下す傾向があると聞きます。イギリスに住んで一年近くになり、何となくイギリスの事を知ったようなつもりでいたりしますが、実は守られた世界の一面を見ただけに過ぎないのだろうなと感じたりします。

「家族」に関しては、筆者は学校で息子さんがいじめにあった話などを書いていますが、その最たる原因はやはり言葉。周りの言葉が全くわからない所に放り込まれた息子さんはさぞ辛い思いをしたことでしょう。もうすぐ3歳になる自分の娘も週三日だけナーサリー(保育園)に連れて行っていますが、最初は「ナーサリー」という言葉を聞いただけで号泣するほど嫌がっていました。ストレスからか爪をかむようになったり、やりきれない気持ちの矛先を妻に向けていたりした時期がありました。今でこそ怪しいながらも英語をしゃべるようになり、友達も出来て自ら進んでナーサリーに行きたいと言い出してくれるようになりましたが、そこに到達するまでかなり辛い思いをさせてしまったのかもと考えると少し気が重くなります。また妻に関しても、最初は友達も頼れる人も誰もいない、何か見えない疎外感みたいなものを感じホームシックになるような時期を経験させてしまいました。同じく今でこそ多くの友人に囲まれそれなりにここでの生活をエンジョイできるようになったみたいですが、それも限られた時間の中の話。我々と同じく卒業と同時に皆また次の場所へ移動していってしまいます。いったいどれだけのものが残るのか。自分自身は自分の意志で留学しに来ているからともかく、家族に関しては、ここでしか経験できないことをできたプラスの面もあればやはり陰の側面もあることは否めません。楽しいことばかりでない中一緒にいてくれるだけで感謝と言うところでしょうか。

イギリス人の性格については筆者は内気、シニカル、現実主義と書いていましたが笑ってしまうくらいその通りな気がします。内気というより人との距離の置き方が他国より大きいと表現した方が良いでしょうか。これについてはイギリス人のクラスメートと話したことがありましたが、彼らも認める一面のようです。確か「アメリカ人とかであれば人に話しかけるか、かけまいかという状況では迷わず話しかけるだろうが、イギリス人の場合は、話しかける事が失礼だったらどうしよう、何か間違えたことをするよりは何もしない方が良いから何もしない、と考えるのだ」のようなことを言っていたのが印象的でした。またシニカルな一面に関してはそれを前面に押し出しまくっているイギリス人クラスメートがいるので実証済みです(笑)。

イギリスが好きか嫌いか、と聞かれたら「好きだ」と答えると思います。今まで嫌な体験をしていないから、というのもありますが、仮に例えばレイシズム絡みで何か嫌なことを体験したとしても、過去の経験から、「ああやっぱり」と流せそうな気がします。天気も悪く、飯もこの上なくまずいですが、それ以上にこの国には何か惹きつけられる懐の深さや歴史の重みを感じます。緑もこの上なく綺麗ですし(笑)。ガイジンとしての疎外感みたいなものはどうあがいても取り除くことは出来ないのでしょうが、出来るものなら長く住んでこの国をもう少し理解してみたいものです。
posted by kensuke at 08:09| Comment(7) | TrackBack(0) | 雑感・独り言 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント

食べ物はまずいし、物はよくこわれる、冬は日がみじかく、おまけに年中天気がわるい。

昨日、床屋で英国人のおねえさんに「英国のいいところって、そお、音楽くらいかしらね」と、全く聞いてもいないのに言われる。こんな国だけど、僕も英国という国が好きです。どうしてなんだろうか?

半年程前、米国人の友人にもらった本で、'Watching the ENGLISH - The Hidden Rules of English Behaviour'という本があります。幼少期から10年以上に渡って父親の仕事上の関係で米国、仏国等を転々と移り歩いた英国人である文化人類学者の筆者が、英国人とはいったい何なのかを、特に米仏国人との比較を中心に、大変面白おかしく描写した傑作?!です。

例えば、米国人が英国人に自己紹介する際の典型例として、(以下抜粋)The 'brash American' approach: 'Hi I'm Bill from Iowa,' particularly if accompanied by an outstretched hand and beaming smile, makes the English wince and cringe. など、至極笑える表現満載です。

確か英国内や米国でもベストセラーとなっていた本なので、是非こちらに滞在している間に一読されることをお勧めします。もっと英国が好きになるかもしれませんよ。
Posted by tK at 2007年06月24日 07:24
tKさんのに似たので、Camの街中の土産物屋で、How to be Britishでしたっけ、シリーズものの絵葉書がありますね。
例えば溺れている人が「Help me!」っていってもステッキをもったイギリス紳士は無視して行ってしまうが、「Excuse me, if you do not mind could you....(以下10行ほど)」と話しかけると浮き輪を投げてくれる、みたいな。

さてさて、レイシズム×階級意識みたいなのは厳としてありますね、気になるならないは別としてですが。
例えばWait Roseに行くと、客もそうですが店員も基本的に白人の中年です。たまに行くと自分が外国人であることを意識してしまいます。Sainsburyに行くと有色人種や若いフリーター・学生アルバイト(酒売れない人たち)が出始めます。TescoやASDAになるとレジ係はほぼ全員が有色人種。もちろん客層もWait Roseとはだいぶ異なります。これがまたHarrodsとか行くと今度店員がOxbridgeだったりするわけですな。

誰かは忘れましたが某イギリス人が、Small island, Small mindと自虐的に言ってましたが、我々もSmall islandですので。。。
Posted by shige at 2007年06月25日 07:25
>tKさん
面白そうな本ですね。今度本屋で探してみようと思います。英国の良いところは音楽ですか・・・UKロックはあんまり好きじゃないんですけどね^^;

>shigeさん
そんな絵はがきがあったとは知りませんでした。Waitroseは会員登録するときのタイトルの選択肢がMrの他にSirだとかLordだとかまであるそうですね。そこまで上の階級を意識したスーパーも珍しい。日本じゃ考えられませんね。紀伊国屋もびっくりって感じですね。
Posted by kensuke at 2007年06月25日 18:37
UK Reggaeはなかなかいいですよ。かつての植民地であるジャマイカから逆輸入。今度、CDでも持って行きます。
Posted by ksh at 2007年07月05日 08:01
UK Reggaeですか。そんなものが存在していたとは知りませんでした。レゲエはボブ・マーレーくらいしか知らないので是非聞いてみたいです。CDよろしくお願いしますっ。
Posted by kensuke at 2007年07月06日 07:37
『遥かなるケンブリッジ』とあわせて読むと面白いのが、『ケンブリッジの贈り物』(川上あかね著)です。1970年生まれの著書が自身の1995年から2000年までのフェロー(!)としての生活を綴ったものです。

書かれている時代、著書の年代が近いせいでしょうか、個人的にはこちらの方に藤原さんのものより親近感を覚えます。

是非読んでみてください。貸し出しご希望でしたら、どうぞ。
Posted by atsushi at 2007年07月07日 06:27
>atsushiさん
貸し出し希望です。そっちのほうも気になっていたところです。atsushiさんは夏の間ずっとCamに残ってるんでしたっけ?チャンスがあったらよろしくお願いします(またうちで飲みますか(笑)?)
Posted by kensuke at 2007年07月07日 08:00
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。